AIで自分のサインを作ってみた

書類に名前を書くとき。作品やメッセージカードの最後に一筆を添えるとき。「いつもの名前を、もう少し自分らしい形にしたい」と思うことはありませんか。

では、そのデザインをAIに頼んだらどうなるのでしょう。

今回は「矢野哲史」と「T.Yano」の2つの表記で、GPTの画像生成を使ってサイン案を作ってみました。漢字と英字、読みやすさと装飾性。方向を変えながら生成すると、名前の印象が少しずつ変わっていきます。

まずは、「どこで使うサイン?」から考える。

いきなり「かっこいいサインを作って」と頼むこともできます。でも、どんなものが出てきても、何を基準に選べばよいのか迷ってしまいそうです。

そこで今回は、次の条件を軸にしました。

  • 名前は「矢野哲史」、英字表記は「T.Yano」。
  • 落ち着いた印象で、長く使いたいと思える形。
  • 黒一色で、装飾は名前の線から生まれるものを中心に。
  • 読みやすい案と、少し大胆に崩した案を比較する。

今回は、この条件でデザインを比べてみます。実際に書類などへ使う場合は、提出先のルールも確認しましょう。

生成指示の要点 / 英字の基本案

「T.Yano」を正確に表記。白い背景に黒い手書きサインを3案。読みやすい形、流れる形、コンパクトな形を、それぞれ比較できるように。余計な文字や飾りは入れない。

「かっこよく」だけでなく、「自分の手で書きたい」「名前の文字を残したい」まで伝えるのがポイントです。できあがった画像が希望に合っているか、あとで見直しやすくなります。

まずは英字。「T.Yano」にも、いくつもの表情がある。

最初は、比較的読みやすい方向で生成しました。

まずは、読みやすい英字で。

<生成指示>
T.Yanoを、読みやすい形・流れる形・コンパクトな形の3方向で生成してください。白い背景に黒い手書きサインで、文字は正確に。

GPT · 実際の生成画像01

GPTで生成したT.Yanoの読みやすさを意識したサイン3案

今回の3案は、TとYを大きく見せる方向にまとまりました。大枠は似ていますが、文字の傾きや最後の線の長さを見比べると違いがあります。「もっと違う案が欲しい」と感じる部分もあります。それでも、いくつか並べて見ると、自分が好きな線や形に気づけます。

ここでの確認点は、見た目だけではありません。Tの後のドットは残っているか。Yの後にa・n・oを読み取れるか。格好よく見えても、自分の名前になっているかは確認したいところです。

次はもう少し大胆に。TやYを大きく動かし、最後のoから伸びる線も使ってみます。

GPT · 実際の生成画像02

TとYの線や装飾を大きくしたGPT生成のT.Yanoサイン案

ぐっと「サインらしい」印象になりました。ただ、長い線や重なりが増えるほど、実際にどこから書き始めるのかが気になります。

画像では滑らかに見える曲線も、自分の手で続けて書けるとは限りません。見た目が流れていることと、手が流れるように動くことは別。きれいな見本ができたら、次は「どう書くの?」も考える必要があるのですね。

では、漢字の「矢野哲史」は?

今度は漢字です。英字とは違い、四つの文字それぞれに構造があります。単に線をつなぐだけでは、別の字に見えたり、何という名前なのか分からなくなったりすることもありそうです。

まずは「四文字の構造をできるだけ残す」という条件で生成しました。

GPT · 実際の生成画像03

矢野哲史の四文字を指定してGPTで生成した漢字サイン案

漢字が並ぶと、筆文字のような落ち着きが出ます。一方で、ぱっと見たときの雰囲気だけで判断するのは禁物です。「矢」「野」「哲」「史」を一文字ずつ見て、部品の抜けや余分な線がないかを確認します。

次は、文字の高低差やつながりを大きくした、個性的な方向です。

漢字も、もう少し大胆に。

<生成指示>
矢野哲史の4文字で、文字の高低差や線のつながりを変えたサインを3案。直線と曲線を組み合わせ、個性的な方向で見比べたいです。

GPT · 実際の生成画像04

矢野哲史を大胆に崩す方向でGPT生成した漢字サイン案

大胆な形には目を引く魅力があります。ただし、画像に見える省略が、意図を持った崩しなのか、AIが文字をうまく描けなかったのか、見ただけでは迷う部分もあります。

サインは必ず楷書で読める必要がある、という話ではありません。大切なのは、「この線は、名前のどの部分?」と説明できることです。漢字の作り方を考えるなら、漢字サインをアレンジする10の方法も参考になります。

気に入った。でも、自分で書ける?

比較したあと、英字は装飾を控えた案、漢字は四文字のまとまりを意識した案を、改めて1点ずつ生成しました。まだ完成ではありませんが、比べるための見本になりそうです。

GPT · 実際の生成画像05

装飾を控えて生成したT.Yanoの検討候補

GPT · 実際の生成画像06

四文字のまとまりを意識して生成した矢野哲史の検討候補

絞り込んだところで、次に確認したいのはこの四つです。

  1. 名前:指定した文字や記号が意図したとおりに含まれているか。
  2. 書く順番:線の始まりと終わり、ペンを離す場所を説明できるか。
  3. 書くたびに同じ形になるか:同じ大きさとバランスで、繰り返し書けるか。
  4. 用途:実際の記入欄や使用するペンに収まりそうか。

今回見ているのは画像なので、確認できるのは主に文字と形です。「すらすら書けるか」「何度書いても同じ形になるか」は、実際にペンを持って試す必要があります。ここでは、気に入った候補が見つかったところまで、と考えます。

練習帳もお願いしたら、どうなる?

候補を薄い線でなぞれるようにすれば、練習の入り口になるのでは。そんな発想で、英字サインの練習用イメージも生成してみました。

練習するための形も考えてみる。

<生成指示>
T.Yanoの黒い見本、薄いグレーのなぞり線、空の練習行を並べたシート案を生成してください。筆順の番号や矢印は付けないでください。

GPT · 実際の生成画像07

T.Yanoの見本と薄いなぞり線を配置したGPT生成の練習シート案

ここにも注意点があります。画像を新たに生成すると、元の候補と線や文字が変わる場合があります。練習用にするなら、選んだ候補と同じ形かどうか、最初に見比べる必要があります。

練習に使うなら、まず見本の形をひとつに決める。次に、どこから書き始め、どこでペンを離すかを確かめる。最後に、見本をなぞらず書いてみる。この順番なら、何を練習すればよいかが分かりやすくなります。

今回はシートを作るところまで。実際の練習で使えるかどうかは、これから確かめる段階です。

AIの得意なこと、任せきりにしない方がよいこと。

1.好みを見つける相談相手になる

方向の異なる案を比べると、「曲線が好き」「装飾は少ない方がいい」など、曖昧だった好みを言葉にしやすくなります。細かく指定しなくても、それらしいサイン案が出てくる手軽さは、AIの良いところです。

最初から完成形を求めるより、「自分はどんなサインが好きなのか」を探すために使うと、役立つと感じました。

2.生成した案に、自分らしさを加える

気に入った案ができても、そのまま使う前に、自分の手で書いてみたいところです。線を短くしたり、文字の傾きを変えたり、書きやすいようにつなぎ方を調整したり。そうした工夫を重ねることで、自分の手になじむサインに近づきます。

AIが生成したというだけで、他の誰とも似ていないことまで保証されるわけではありません。案を出発点として、自分の好みや書き癖を取り入れることをおすすめします。

3.今回は、漢字より英字の方がまとまりやすかった

今回の生成例では、漢字よりも英字の方が、サインとして自然にまとまって見えました。英字は、文字の傾きやループ、線のつながりを変えることで、印象の違いを出しやすいように感じます。

一方、漢字は一文字ごとの構造が複雑です。楷書や行書の形を崩すだけでなく、どの線を残し、どこを省き、隣の文字とどうつなぐかまで考える必要があります。崩し方によっては、別の文字に見えてしまうこともあります。

だからこそ、漢字のサインには、名前を読み解きながら全体のバランスを整える感覚が求められます。今回のAI案を見ても、この部分にはまだ工夫の余地があり、デザイナーの経験やセンスが生きるところだと感じました。

それなら、署名ドットコムのデザイナーが作ると?

AIでも、ここまでいろいろな案が作れました。では、同じ「T.Yano」「矢野哲史」を、サインを専門に手がけるデザイナーが形にしたら、どうなるのでしょう。

ここからは、署名ドットコムのデザイナーによる2点の作例です。今回のAI案を修正したものではなく、同じ名前の別の作例として見比べてみます。

「T.Yano」――文字を並べるより、線でひとつに。

署名ドットコムのデザイナーによるT.Yanoのサイン作例

ぱっと見て目に入るのは、大きく下へ回る線と、右へ長く伸びる横線です。AI案がTとYの文字を一つずつ見せる印象だったのに対して、こちらは線が重なり、名前全体がひとつのマークのようにまとまって見えます。

「文字をきれいにつなぐ」だけでなく、「名前全体をどんな形に見せるか」という違いが分かりやすい作例です。下の大きな曲線が、上に集まった文字とのバランスも作っています。

「矢野哲史」――四つの漢字に、ひとつの流れを。

署名ドットコムのデザイナーによる矢野哲史のサイン作例

こちらも、普段書く四文字とはずいぶん違う表情です。横に通る長い線や、中央から下へ伸びる線、左上の大きな曲線が目に入ります。

今回のAI案では、四文字がそれぞれ横に並ぶ形が中心でした。デザイナーの作例では、文字の高さや置き方を変え、線を重ねることで、名前全体にまとまりが生まれています。「矢野」と「哲史」を別々に整えるだけでは思いつきにくい形です。

もちろん、この画像だけで書き順や書く速さまでは分かりません。実際に使うには、どの線をどの順番で書くかを確認し、自分の手で練習することが必要です。

AIで好みを見つける。その先を、デザイナーと考える。

今回の比較は、AIとデザイナーのどちらか一方を選ぶためのものではありません。AI案を見て「曲線が好き」「もっと短くしたい」と分かったら、それをデザイナーへ伝える手がかりにすることもできます。

AIでイメージを広げる楽しさと、名前全体の形や線のつながりを考えるデザイン。その両方を知ると、自分のサインを選ぶ視点が少し増えるのではないでしょうか。

気に入った画像ができたところから、自分の名前で、長く使いたい一筆へ。そこを一緒に考える相談先として、署名ドットコムのデザイナーもお役に立てれば嬉しく思います。

林 文武
株式会社署名ドットコム 総合プロデューサー兼代表 2006年に署名ドットコムを創立し、サインデザインの分野でパイオニアとして活躍しています。著書には『サイン・署名の作り方』があります。

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